「虐殺器官」 伊藤計劃

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

一言で言うと、すごかった。繊細にして強靭な文学だ。
主人公は米軍の特殊部隊に所属している兵士であり、
紛争地域で虐殺を引き起こしていると
疑われているジョン・ポール暗殺の任務につく。

人工筋肉やカウンセリングを通した未来の兵士についての描写が真に迫っている。
その分「技術的に」罪の意識から逃れている兵士の思考に
違和感を感じさせつつも整合性が保たれている。



この作品は9.11以降の世界に対する究極の回答だ。
そしてそういった時代を鋭く切り取ったテーマを扱いながら
「死とどうむきあうべきか」「罪と罰とは」「幸せの配分とは」
といった普遍的なテーマとも密接に絡み合っている。


私は文学を読むとき村上春樹から何歩進んでいるか、
を基準にすることが多いのだけど、
これは確実に2歩は進んでいる。
特に死に対する洞察に関して。