ロシア古典文学のような。舞台演劇のような。 鹿島田真希「ゼロの王国」(上)

ゼロの王国(上) (講談社文庫)

ゼロの王国(上) (講談社文庫)


書店で「芥川賞に最も近い作家!」との触れ込みで売られていたのでこの小説を買ってみたのだが、本当に受賞してしまった。あの帯を付けた編集もなかなかの慧眼である。

前置きはさておき、このようにして買った鹿島田真希「ゼロの王国」の感想はというと、期待はずれと言ったところだ。例えて言うなら無理やり今風のファッションに身を包んだ老人のような作品とでも言おうか。


不自然に過剰な説明を込めた話し方をするピュアな童貞青年が主人公である。現代を舞台とした会話劇なのだが、この青年を導入として不自然な話し方をする人物が徐々に増えていき、いつの間にかまるで全員が観客に自分や相手の気持ちに説明を加えながら話す舞台演劇のようになっていく。

そしてお話の中心はと言うと、これまたとてもげんなりしてまったのだが、恋のすれ違いというとてもつまらないテーマを扱っているのだ。

もちろん調理のしようもあるテーマなのだが、恋に関して人物の感情や態度があまりに一面的に過ぎる。ナマの感情がほとんど感じられず、さながら台本を棒読みするだけの大根役者のようであった。

文体はロシア文学の翻訳を思わせるような文体である。現代の会話劇でこの文体を用いるのが新しいと思わせたかったのだろうが、逆にセンスの古さを露呈している。重苦しいものが文学であると勘違いしている人が好きそうな作風ではある。