人間賛歌でありながら人間のクズさも克明に描く名作ミュージカル 映画「レ・ミゼラブル」

レ・ミゼラブル~サウンドトラック

レ・ミゼラブル~サウンドトラック

珍しく映画に感銘を受けたので映画レビューなど書いてみます。
その映画というのが他でもなく名作ミュージカル「レ・ミゼラブル」なんですけどね。


正直あんまり期待してなかったというのが大きい。
どうせ古典的名作だし、お涙ちょうだいの美談なんだろってナメてた。
ヤラれた。
見てる間ずーっとキャストの歌声に心震えっぱなしで最後には拍手とともに泣いてましたよ。
豪華キャストによる歌唱演技の素晴らしいこと、舞台美術の圧倒的なリアリティについては他のレビューに任せるとして、
本記事では各登場人物の信条について書いていきたいと思います。


大まかなストーリーとしては囚人で人間不信であったジャン・バルジャンが司祭の献身的な親切により「正しい人」として生まれ変わり、
数々の困難に阻まれながらも運命的に出会った女性ファンテーヌへの愛を貫き通すという話です。
ただ愛を貫くだけなら「はいはい、素晴らしい人間が素晴らしい境遇に恵まれたんだろうね」で私は終わってしまうところですが、
この作品では正しく愛を貫き通すのがいかに難しいかを他の登場人物により語っているのです。


先ほど私は「愛」と言いましたが、この作品中での愛とは神の下での愛を主に考えられているので、
日本人としては博愛や善という言葉にした方がわかりやすいと思います。
実際ジャン・バルジャンからファンテーヌへの感情は個人的な好意というのももちろんありますが、
信仰心からファンテーヌのために生きなくてはならないという義務感の方が非常に大きいように見えます。


ジャン・バルジャンは改心して正しい人になるわけですが、果たして正しい人でい続けることはできるんでしょうか?
人の心は弱く、生活苦や悪い人間関係により再び悪人に舞い戻ることはないんでしょうか?
そんなアンチテーゼとして現れるのがジャベール警部です!
この強面のおっさんがたまらなく魅力的なんです!
役柄としてはせっかく罪を悔い改めたジャン・バルジャンを昔の罪で殺そうとするといういわば敵役。
最初はなんてしつこくて嫌な奴なんだ、という印象ですが、彼の信条とそれを貫く決意があらわになるとどんどん心ひかれていきました。
その信条は「クズなやつは死ぬまで一生クズ」
彼は最下層で生まれ、その事実を痛いほど身にしみて実感しているのです。
また彼もジャン・バルジャン同様に信仰心が高く、悪人を捕らえることを神の光に照らされた道だと信じる強い心を持っています。
しかし、そんな彼の信条は死にかけていたところをジャン・バルジャンに助けられて揺らぎ、
今まで神の道だと思っていたものが罪だという意識にとらわれて自殺してしまいます。


また、弱い心の象徴として出てくるのがテナルディエ夫妻という宿屋の主人とおかみです。
役柄としてはファンテーヌに法外な借金を押し付ける倫理のかけらもないクズです。
本業の宿屋の方もいちいちいろんな追加料金つけたり客の小物くすねたりと好き放題。
(この夫婦が歌いながらテンポよく客のものをくすねるシーンは必見)
信仰心がなければ正しい道から外れるのも異様に簡単だと語るにはうってつけのキャラです。


周りに「正しい道を貫くことの困難さ」をバランス良く配置しながら
逆説的にジャン・バルジャンの強さを語るレ・ミゼラブル
人間なんてみんなクソだと思っている人ほど見てください。