90年代の精神が終わったのを改めて実感した。 岡崎京子未完作品集 「森」

岡崎京子未刊作品集 森 (フィールコミックス) (Feelコミックス)

岡崎京子未刊作品集 森 (フィールコミックス) (Feelコミックス)

久しぶりにレディコミを読んでみた。
ゼロ年代の想像力」で時代を代表する作家だと聞いて岡崎京子を。


この作品集は著者の事故により1話で中断してしまった「森」をはじめ、
いくつかの単行本未収録の作品を集めた短篇集だ。
掲載年代も幅広く、最新の「森」の1996年から古くは1985年。
1985年とか私が生まれて間もない頃だな。


さすがに時代の変遷を感じる。
90年代前半までの作品は特に自分探し臭を強くかもしだしている。
しかし、今から見るとひどく牧歌的でのんきなものに見える。
バブル期の影響もあるだろうが、とても浮ついていて、
どうせいつかはいい男を見つけて結婚できる、そんな楽観が見える。


1995年の作品に入ると少し作風が変わる。
それまでのように物質的な豊かさに頼らず、
生身の心をさらけ出していかないと、という必死さが多少出る。


そして最新の作品「森」。
この作品は死を意識させることによって日常を退屈なものではなく、
貴重なものと捉えようとしている意図が見える。
しかしなんだか遠い関係の死ばかりでいまいち切実な問題に引き寄せ切れていない。
相変わらず退屈な恋愛と退屈な日常に堕している。
テーマは「まよいこんでしまうこと」。
そしてそのテーマの通りに作品は中断され、作品そのものがまよいこんでしまう。


この作品を読んで改めて物質的に豊かな退屈な日常を送るというぜいたくは
もうできなくなってしまったんだなと感じた。
この時代の彼らも悩んでいたんだろうが、ひどくのんきに見える。
ここに示された精神性が通用しなくなったのと、
これ以降のヤングフィールでサプリ等のお仕事マンガが人気を博したのは無関係ではないだろう。
時代の終わりを感じた。

サプリ10 (Feelコミックス)

サプリ10 (Feelコミックス)