魅力的なキャラの生き様をかけた戦いを圧倒的な構成力で描く傑作。 虚淵玄 「Fate/Zero」

Fate/Zero(6)煉獄の炎 (星海社文庫)

Fate/Zero(6)煉獄の炎 (星海社文庫)

現代の魔術師が過去の英雄を召喚し、7つに分かれて争う「聖杯戦争」。
そんな聖杯戦争虚淵玄の圧倒的な構成力で組み上げた小説がこのFate/Zeroです。


主要キャラだけでもマスター(魔術師)7人、サーヴァント(英霊)7人と非常に多いんですが、
どのキャラも負けず劣らず魅力的。全員主人公でもいいくらい。
それぞれに戦いに対するスタンスが全く違っていて、
戦闘で交渉で会話で、それらの主義主張がぶつかり合う場面には心躍ります。


主人公衛宮切嗣は「世界から争いをなくす」という願いをかけ聖杯を求めます。
そのためにはどんな悪どい手段も厭わない。
一方彼に召喚されたセイバー(アーサー王)は騎士道を貫き通すためにブリテンの復興という願いをかかげ戦争に参加します。
セイバーは騎士道そのものでできた人なので卑劣な手段などもってのほか。
このように誰もが違う正義と違う願いをかかげ戦いに立ち望んでいます。
そんな彼らは戦いという窮地の中で自分の正義を揺さぶられ、自分の本当の願いに気付かされる。


またもう一人の主人公とも言えるのが言峰綺礼
彼は敬虔な信徒として教会の代行者を勤めていますが、どれだけ信仰の道を極めても満たされない自分に疑問を抱いています。
同じ空虚を持つ人間と見初め、敵であるはずの衛宮切嗣との邂逅を試みますが…
彼が自分を見つけていく過程も非常に興味深いです。


本書で特徴的なのはド派手な魔法バトルもさることながら、
機械マニアの虚淵玄による銃器や戦闘機械の精密描写。
本当に楽しそうに書くので筆が乗っているんだと読んでいて実感できます。


魔術師のバトルロイヤルというありきたりな話しになりそうなところを、
各キャラの人生をしっかりと描きこみ、生き様そのものがぶつかり合う話しとして非常に緻密な構成力で練られた本作品です。
これをオススメしない手はありません。


過去記事
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