ジョジョを継ぎ、ジョジョを超える物語  舞城王太郎「ジョージ・ジョースター」

JORGE JOESTAR

JORGE JOESTAR

上遠野浩平西尾維新に続くVS JOJO小説、第三弾は舞城王太郎という発表があったとき、
舞城ファンなら誰もが石仮面を発見してしまったツェペリさんのような気持ちになっただろう。


「これはとんでもないことが起こるに違いない!」


舞城、読まずにはいられないッ!
つーわけで読みましたよ。
めちゃくちゃ衝撃的で面白かった!
ジョジョを継ぐ小説であり、ジョジョを超える小説だった。


(注:本来ならジョジョアニメ1部を見終えてこれから2部を見る人にオススメしたいところですが、
たぶん1部からSBRまで全部読んでる人の方が楽しめると思います)


こういう原作付きの作品はコアな部分のマインドやテイストは原作通りであることを求められる一方、
それを表現する媒体が違うために媒体に適した表現に変え、原作を超えるという一見相反することを求められます。
この小説はそのあたりを非常にうまくやっています。


おなじみジョナサンの息子であり、ジョセフの父親となるジョージ・ジョースタージョジョコミックスで言うところのジョージII世)が主人公の
奇数章から成る正書パートと、
2012年の杜王町で福井出身15歳の日本人名探偵「ジョージ・ジョースター」が活躍する偽書パートから成ります。
正書パートでジョジョを継ぎ、偽書パートでジョジョを超える、そんな構成です。


正書パートは文句のつけどころがないくらい「小説:ジョジョ1.5部」であり、素晴らしかった。
舞城のまともな方の回路を最大限発揮しており、たぐいまれなる構成力と文筆力で魅了してくれます。
波紋を持たないジョージが飛行機に興味を持ち空軍に入った理由、エリナから聞かされる漂流の真相、
リサリサとの出会いから結婚にいたるまで、ジョースター家に脈々と流れる勇気の精神、あますところなく「ジョジョ」でした。
特にエリナのディオに対する複雑すぎる感情は泣けて仕方がない。
コミックスで「ディオ→ジョージII世(間接的に殺害)」と一文で書かれた部分がこんなに衝撃的な展開だったとは!!


コミックスでは表情、奇妙なポーズ、波紋やスタンドの状態で表される心理状態を文章によって緻密に表現し、
動きの多いアクションシーンでも舞城お得意の擬音(もともと舞城は変な擬音表現が多いんだけどこれもジョジョの影響なのかな)を
使ってダイナミックに表現しております。
また「精神の状態が波紋やスタンド等の視覚化された現象となって現れる」というジョジョの基本概念もうまく活かされています。


そしてアマゾンレビューなどでは非難ごうごうである問題の偽書パート。
こっちはほんとぶっ飛んでて大好きなんだけど理解の追いつかない部分も多いねw
殺人事件を解決するために杜王町に名探偵ジョージ・ジョースターが来るという導入から始まるんだけど、
そこから宇宙行ったり時間飛んだり、とんでもない方向にどんどん進んでいきます!
知ってるジョジョキャラとか、知ってるかと思ったら誰だよこいつってジョジョキャラがいっぱい出ます。
詳しいネタバレは避けますが、
ジョジョ6部やSBRの設定であるパラレルワールドを利用して
ジョナサン・ジョースターディオ・ブランドーの因縁により1部からSBRまでの全てのジョジョワールドを直接に貫き通し、
最終的にSBRのラストシーンにつなげるという超展開はこの作家でなければ決して考えらない「ブッ飛んだ」構成でしょう。
そしてそのストーリー展開は「ビヨンド」という神の意志が運命を司っているという考え方もとてもSBRらしくあり、
「ビヨンド」=運命の意志=著作者の意向というメタ的な理解は舞城らしいところであります。


舞城王太郎というメタ的超展開の構成力が半端ない作家によりつづられたジョジョを継ぎ、ジョジョを超える物語。
本当にこの人ジョジョ好きなんだなって愛情を深く感じられる作品でした。
最後の一文は舞城王太郎空条承太郎と響きがなんとなく似てるっていうのに結論が出たってことでいいんだよね?!