人間は非効率的である。無人化すべき。 神林長平「戦闘妖精・雪風」

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

「現在の除雪隊の作業状態は非能率的だ。認めるか」
<認める>
「改善策を述べよ」
<無人化すべきである>
「人間は必要ないんだな」
短い電子音。
<質問の意味不明。再入力せよ>

最近はすっかりコンピュータが身近になりましたが、
どのように感じているでしょうか。
わけのわからないブラックボックス
それとも頼れる道具?
もしくは人間以上に愛着のある相棒だったり、
身体の一部とさえ感じている人もいるかもしれません。
戦闘妖精・雪風はそんなコンピュータ、特にAI(人工知能)との関係を軸に
人間とは何かを照らし出してくれる物語です。


【概要】
南極大陸に突如出現した超空間通路によって、地球への侵攻を開始した未知の異星体<ジャム>。
人類は反撃を開始し、<通路>の向こう側の惑星フェアリィに防御拠点フェアリィ空軍基地を設置した。
戦術戦闘電子偵察機雪風とともに、孤独な戦いを続ける特殊戦の深井零。
その任務は、味方を犠牲にしてでも敵の情報を持ち帰るという非常かつ冷徹なものだった−−。


まずこの異星体ジャムってものがよくわからない存在として描かれています。
よくある宇宙人のように姿を現さない。感知できるのは飛来してくる戦闘機だけ。
話しの後半になると戦闘機そのものがジャム、つまり機械知性体らしいことが明らかになってきます。


一方、深井と雪風の関係も一筋縄ではいきません。
深井はジャムと戦い続ける戦士としての誇りを持つと同時に雪風を相棒として深く愛しています。
しかし、雪風はジャムの撃破のためには深井の操作を無視し、
深井の戦士としての誇りと雪風への愛情を同時に裏切るような態度を取ります。
もちろん雪風はジャム撃破のためだけの戦闘知性として人間がデザインしたので当然の姿勢なのですが。


ジャムとの戦闘は非常にシビアでかつつかみどころのないものです。
そのためには全てを効率化することになる。しかし究極の効率化に近づくにつれ、
フェアリィ空軍の兵士は心が次第に機械に近づくようになり、さらに自分すら必要ないのでは?と悩むようになります。
効率化を目指しても自分や周りの人や物に対する「非効率的」な愛情を捨てられないのが人間なのでしょう。


また、地球の連中はフェアリィ空軍がジャムの侵攻を止めていることが当たり前になると、
ジャムへの危機感を忘れて国家間の対立にしのぎを削るようになっていきます。
地球のために心を冷徹にしてジャムと戦うフェアリィ空軍兵士と、地球内で「人間的な」感情と共に小競り合いをしている人々。
どちらが人間であり、どちらが地球人類なのでしょうか。


これから人類はコンピュータを使ってさらに効率化を進めるでしょう。
しかし、それに合わせて人間も効率化するには限界があるのだと思います。
人は機械のように周りの人間を簡単に見捨てることはできない。
また、そのような効率化の進む先は究極の競争社会であり、個人的な幸せとはほど遠い。
自分としては効率化はコンピュータに任せて、人間は仕事とは違うコミュニティを作って
ある程度のんびりやっていくのが人間らしさを取り戻す方策なのではないかな、と思います。
無人化すべきですね。


第二弾のレビューはこちら。
神林長平「グッドラック 戦闘妖精・雪風」